木に生えるシイタケは、圧倒的不利でも「転機」を乗り越える。

ミズナラ古木に生える野生シイタケ
(筆者撮影)

上と左の写真は、筆者が登山中(2022年4月、丹沢)で見つけた野生のシイタケです。

野生のシイタケなんて、登山道で見つけることはめったにありません。だから見つけた時の喜びは格別です。

こうして深い山の中、倒木に生えるシイタケですが、木に生える生のシイタケはお店でもなかなかお目にかかりません。 なぜなら、現在お店で買える生のシイタケは、そのほとんどが、おがくずをつかった「菌床栽培」によるものだからです。

それでは、本当の「木に生えるシイタケ」は、今どのような現状になっているのでしょうか?調べてみると、そこには「転機の乗り越え方と、そのヒント」がありました。 詳しくご紹介します。

原木栽培のシイタケは、1割にも満たない。

出典:農林水産省 令和2年度 特用林産基礎資料
(特用林産物生産統計調査)

シイタケの栽培方法には、大きく分けて2つあります。 「原木栽培」と「菌床栽培」です。
原木栽培とは、文字通り「原木」にシイタケを生じさせる方法です。 使われる木は主にコナラやクヌギが使われますが、この原木にシイタケ菌(種菌)を植え付け、野外やハウス施設で育てます。 
一方の菌床栽培では、木材をチップ状にしたおがくずに米ぬかなどシイタケ菌の栄養を混ぜて培地を作ります。 そこにシイタケ菌を植え付け、施設の中で栽培します。

この2つの方法のうち、現在の主流は圧倒的に「菌床栽培」です。 上のグラフが示す通り、原木栽培のものは1割にも満たないのが現状です。 

菌床栽培は、一見メリットばかり

しかし、今から20年前までは、状況は違っていました。 下のグラフが示す通り、2000年以前はまだ原木栽培が上回っていたのです。 

出典:農林水産省 令和2年度 特用林産基礎資料(特用林産物生産統計調査)

かつては、林の木を伐り、原木を作ってシイタケの種菌植え付ける方法が主流だったシイタケ栽培。

なぜ、菌床栽培がここまで主流になったのでしょうか? 

1.収穫までの期間の短さ。

原木栽培では、種菌を植え付けてからシイタケが発生するまでには、最低でも1年、それなりの収穫量を得るには2年以上がかかると言われています。 一方の菌床栽培は、シイタケの菌床が出来上がるまでは3か月程度で済み、100日から120日あれば収穫が可能です。

2.歩留まり率の高さ

菌床栽培ではシイタケが生える培地に密集して栽培することができ、原木栽培と比べて効率よく(=歩留まり率が高い)栽培することができます。

3.原料費の安さ

原木栽培の主な原料は、木材(ホダ木)です。 世界的な木材需要の高まりや国内の林業衰退の影響で原木の価格は上昇を続けています。 農林水産省のデータでは、原木栽培用の7割を占めるナラの原木価格は2021年において一本当たり339円。 約20年前と比べると約4割も上昇しています。  また、この価格上昇には福島第一原発事故による放射能被害も影響していると言われています。(※)

4.労働負担の軽さ

原木栽培では、木の伐採から運搬、温度管理に至るまで、重労働を伴います。 施設内で効率的な栽培ができる菌床栽培では、比較的労働の負担が軽くなります。 

こうして並べると、菌床栽培はメリットだらけです。

「でも、大量生産だから味や品質は原木シイタケに敵わないのでは?」

私もかつてはそう思っていました。
しかし、現在では菌床栽培の技術も向上し、原木栽培と変わらないと言われています。(実は私も、味の違いに大差ないと思うことしばしばです。)

たとえば、キノコ生産最大手の「ホクト」では、「一番獲り生どんこ」という、どんこのおいしさの秘訣である「割れ模様」が見事な商品(下記リンク)を出していますが、これも実は「菌床栽培」です。

https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinoko/namadonko/

それでも原木栽培シイタケはなくならない。

これだけのメリットを揃えた「菌床栽培」シイタケが、生産量で「原木栽培」を凌駕するのは必然と言えるでしょう。

しかし、たとえ味に違いがなくなっても、「原木栽培」がこの先も廃れて消滅することもないと言えます。
なぜなら、人は「より安全で、自然の流れに沿った食べ物を食べたい」という欲求があるからです。 

人工、大量生産ではなく、最も自然な形で生まれたものを口にしたい。 
そして、「食育」という言葉があるように、子どもにはその食べ物がどのように作られたかを、きちんと学ばせたい。 

原木栽培シイタケは、そんな方の要望を満たしてくれます。 

生産方法としての原木シイタケは、データを見る限り「逆風」が吹く転機にあります。
しかし、昔と違い、ネットで生産地からお取り寄せが可能な時代。 
原木栽培にこだわる栽培者の方々は、「自然に近く、希少」な原木栽培を上手にアピールし、新たな活路を見出しています。
さらに、原木栽培用の新たなシイタケ種菌も次々と開発され、その地独自のシイタケが「ブランド化」されています。(たとえば、鳥取県のこちら

苦境にある原木栽培だからこそ、新たな価値が生み出される。
転機が活路を見出す実例です。

え、どうでもいいけど、写真の野生シイタケはどうしたの、ですか?
もちろん、ありがたく採取して自宅に持ち帰り、料理上手な妻がこんな風に料理してくれました。(上の2枚の写真)
特にチーズ焼きの方は、菌床栽培ではありえない特大サイズなので食べ応え十分。 
あ、これは原木栽培シイタケのメリットですね。

今、「転機」にある方は、野生シイタケを見つけに山へハイキングに出かけてみませんか? 
いろんな発見やヒントが見つかりますよ!

注釈(※) 朝日新聞 2020年10月1日(福島版)を参照

主な参考文献:

  • 「キノコを科学する シイタケからアガリクス・ブラゼイまで」 地人書館
  • 「農家になろう8 シイタケとともに」 農文協編 

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