紙の保険証と一体何が違う? マイナ保険証の真のメリットとデメリット

仕事上で、お客様から「写真付き本人確認書類」としてマイナンバーカードのコピーをお預かりすることがあります。

その際、よく尋ねられるのが、

「マイナンバーカードを健康保険証にした方がいいのでしょうか?」

という疑問です。

よくお話を聞くと、こんな不安をお持ちです。

  • 「自分の医療情報が筒抜けになりそう。」

  • 「紙の保険証との違いがよく分からない。」

  • 「政府の狙いがどこか別にありそう。」

果たして、マイナンバーカードを健康保険証にして本当に大丈夫なのでしょうか。

そこで、「マイナ保険証」のメリットとデメリットそれぞれを解説します。

ピンとこないマイナ保険証の「公式発表」メリット

まずは、メリットを整理してみましょう。

以下は、厚生労働省による制度紹介動画や政府のマイナポータで紹介されている「メリット」です。

  1. マイナンバーカードが病院でも薬局でも、保険証代わりに使える。

  2. マイナポータルでこんな情報がいつでもどこでも見られる。
  3. (40歳以上の)特定健診情報
    (過去に処方された)お薬の情報
    (確定申告にも使える)医療費の明細

  4. 就職・転職・引越をしても健康保険証としてずっと使える。

  5. 窓口への書類の持参が不要になります!

しかし、上記の1~3は、メリットとしては今一つピンときません。

それは、(個人的に)メリットとしてはいささか「弱い」と感じるからです。

  1. 紙の保険証は確かに不要になるが、代わりにマイナンバーカードを病院や薬局へ持参しなければならない。
    (落としたりして失くしてしまうリスク)

  2. 特定検診は国民健康保険の被保険者が対象なので、民間の健康保険に関する検診情報は対象とならない。
    また、過去の薬剤情報は紙やオンラインの「お薬手帳」を見れば済むし、医療費控除も年10万円を超えなければ確定申告がそもそも不要。

  3. 確かにメリットではあるが、会社から「健康保険被保険者資格証明書」を発行してもらえば、新たな保険証が届いてなくても窓口負担は原則3割で済むので、大きなメリットとは必ずしも言えない。

 

窓口への書類持参が不要になる、は大きなメリット

しかし一方で、4にはやや大きなメリットを感じます。

それは、健康保険の高額療養費制度における「限度額適用認定証」の事前申請や、窓口での提出が不要になるからです。

高額療養費制度とは、本人の所得に応じてその月の医療費が一定限度額を超えた場合、差額が還付される仕組みです。 その際、市区町村役場で「限度額適用認定証」を申請し、病院の窓口に提出すれば、限度額以上の医療費が請求されない仕組みです。

従来であれば、限度額適用認定証を申請せずに病院を受診した場合、一旦窓口で限度額以上の支払いが必要で、後から役所で還付の手続きをしなければなりませんでしたが、マイナンバーカードの健康保険証があれば、不要になります。 

マイナ保険証のデメリット

次に、マイナンバーカード保険証のデメリットを見てみます。

1.使える医療機関や薬局が限られている。

マイナ保険証を有効活用するには、受診する医療機関や薬局にカードリーダーが設置されていなければなりません。(保険証自体が使えない、という訳ではありません) 

ただし、2022年8月時点では、医療機関や薬局のカードリーダー導入率は半分にも達していません。※

  • 病院   : 41%

  • 一般診療所: 15%

  • 歯科診療所: 19%

  • 薬局   : 46%
  • (厚労省:マイナンバーカードの健康保険証利用 参加医療機関・薬局リストおよび医療施設動態調査(令和元年5月末概数)、薬局数・無薬局町村数,都道府県別を元に筆者算出)

ただし、今後は導入率も急速に高まるものと思われます。

この状況を受けて、政府は医療機関や薬局のカードリーダ導入を令和5年4月より原則義務化する予定です。 また導入費用の補助金を見直すことも検討しています。

2. 医療情報の外部利用が可能になる。

患者よりマイナンバーの提供と、事前の同意があれば、医師が患者の特定検診や過去の投薬に関する情報をオンライン上で閲覧できるようになります。 ただし、自分の「プライバシー」を誰にも知られたくない人が、よく仕組みも分からないまま、同意してしまう可能性もあるので、注意が必要です。

将来は保険証の原則廃止も

ここまで読んで、「やっぱり(マイナ保険証)のメリットはないな」と思った方もいらっしゃると思います。

そこで「無理にマイナンバー保険証に変えなくてもいいですよ」と言いたい所ですが、今後は「変えないとデメリットがありますよ。」と言わざるを得なくなりそうです。

なぜなら、(紙の保険証は)将来的に「原則廃止」となる可能性が高く、今後は「持たないデメリット」も増えてくると考えられるからです。

2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し、さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止を目指す。(ただし、加入者から申請があれば保険証は交付される)

令和4年6月7日閣議決定:経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2022)より

「持たないデメリット」については、令和4年10月より紙の保険証がマイナ保険証よりも窓口負担額が高くなることが予定されています。

具体的には、「マイナ保険証」を提示した患者が医療機関で支払う窓口負担の上乗せを初診時に限定し、負担額が現行の最大21円から6円に減ることになります。 一方、「紙の保険証」では窓口負担は9円から12円に引き上げられます。 

この点については、マイナ保険証の導入促進とは言え、同じ保険証でなぜ支払額に差をつけるのか、医療を受ける側としては疑問が残ります。

政府によるマイナ保険証推進の狙いは「データヘルス」の整備

それでは、なぜ政府はマイナ保険証をそこまで推進するのでしょうか?

それは、「データヘルス」の整備が目的だからです。

近年、健診やレセプトなどの健康医療情報は、平成20年の特定健診制度の導入やレセプトの電子化にともない、その電子的管理が進んでいます。これにより、従来は困難だった電子的に保有された健康医療情報を活用した分析が可能となってきました。データヘルスとは、医療保険者がこうした分析を行った上で行う、加入者の健康状態に即したより効果的・効率的な保健事業を指します。

厚生労働省HPより

つまり、マイナ保険証の導入により、従来は紙のやり取りや、書面で行われた様々な健康医療情報を電子データ化(データヘルス)することで、患者の健康状態に合った治療ができるようになり、無駄な業務やコストの削減につながる、ということです。

ただし、データ化については事前に患者の同意を得る仕組みとなっています。

(前略)マイナンバーカードを用いて、薬剤情報、特定健診等情報、医療費通知情報を閲覧することが出来るようになります。薬剤情報と特定健診等情報については、患者の同意を得た上で医療関係者に提供し、より良い医療を受けることが出来るようになります。

マイナポータルより引用

これらの理念に基づけば、マイナ保険証の真のメリットとは、

「マイナポイント7500円分」や「保険証を持参しなくてよい」といった短期的なメリットではなく、「将来的なデータヘルスの整備によって、医療機関から私たち患者がよりよい医療が受けられるようになる」という長期的なメリットである。

ということと言えるでしょう。

しかし、これがいつ、どのような形で私たち保険加入者が「真のメリット」として受け取ることができるのでしょうか。

そのような「具体的な」ビジョンが示されない限り、「マイナ保険証に変えた方がいいよ!」と今は声を大にして言えないのが、正直な気持ちです。

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