国民年金の納付期間が45年へ延長。 負担が増えるなら、その分年金は増えるのか?
先週末、たくさんの方がこの見出しの記事を目にしたかと思います。
もちろん、わたしもその一人です。
毎月16,590円(令和4年現在)の国民年金保険料。
ただでさえ重い負担がさらに5年増えるとは、(私を含めて)自営業者には聞き捨てなりません。
しかしこのニュース、一点重要なことが書かれていません。
それは、
という点です。
答えがないなら、独自に調べるしかありません。
その結果をまとめてみました。
ニュースの要約
まず、記事の内容を整理しましょう。
ポイントは、以下の4点です。
1. 保険料納付期間が40年(20歳~60歳)から45年(同65歳)へ延長。
2. 自営業者や、60歳以降は働かない元会社員などは、負担増。
3. 60歳以降も企業で働いている人は、負担が変わらない。
4. 政府は2024年に結論を出し、25年通常国会で改正法案提出の予定。
つまり、こういうことでしょうか。
これでは、SNSなどで「弱い者いじめ」とブーイングが起きるのも至極当然です。
しかし、ここは冷静に、何が問題なのかをもう少し考えてみます。
政府内でも検討はこれから。
まず、なぜ「負担が増えるなら、その分年金が増えるのか」について、記事には書かれていないのでしょうか。
この答えは簡単です。
政府内で結論が出ていないからです。
厚労省のサイトを見ると、10月25日(火)に「社会保障審議会年金部会」(学者、実務家など有識者の集まり)が開催されています。
本格的な検討は、ここから始まるということなのでしょう。
実際はどの程度深い議論がなされるのかは全く不明ですが、この話し合いでの検討内容は、今後厚労省のサイトに議事録がアップされます。
しっかりした検討がなされているのか、要チェックです。
厚生労働省の「財政検証結果リポート」を紐解く。
しかし、「まだ検討が始まってない」で終わっては意味がありません。
火のない所に煙は立たず。
年金が増えるのか増えないのか、何かヒントがあるはずです。
そこで、過去の政府資料を探ってみましょう。
こんな時参考になるのが、厚生労働省の「財政検証結果レポート」です。
これは、国民年金と厚生年金の現況と見通しを5年おきに検証した結果をまとめたもので、前回は3年前の2019年に検証されたものがレポートになっています。
このレポートを紐解いてみると、ありました。
ヒントは「オプション試算」です。
3年前からすでに検討されていた「5年間の延長」
「オプション試算」とは何でしょうか?
端的に言うと、年金に関する今の制度を「こんな風に変えればもっと年金財政はよくなるよ。」ということを試算したものです。
同レポートにおけるオプション試算では、以下の4つが制度変更として組み込まれていました。
1.厚生年金の被用者拡大
2.国民年金の保険料拠出期間を65歳へ延長。
3.厚生年金の加入期間、受取時期の選択
4.在職老齢年金の緩和、廃止
2が、まさしく今回のニュースの件です。
3年前にはすでに保険料拠出期間の延長は検討されており、既定路線だったというわけです。
それでは、この時のオプション試算は、負担が増える分年金が増えるように計算されていたのでしょうか? それとも、負担が増えるだけでしょうか?
これも、レポートに記載がありました。
試算は「負担が増える分、年金が増える」前提になっています。
この試算では、納付期間を5年延長することで、所得代替率(現役時代の収入と年金の比率)が6.9%上昇しています。
つまり、保険料が増えた分年金が増えている、というわけです。
5年間の負担は100万円弱に達する
とりあえず、過去の試算から「負担だけ増えて年金変わらず。」ではなさそう、ということは分かりました。 (ただし、実際の制度改正がそうなるかは未知数です)
もしこれが本当なら、ある程度懐に余裕がある方はむしろ喜ばしい話かも知れません。
給付額の1/2に税金が投入される、ある意味有利な国民年金。
できるだけ保険料を払って給付額を増やしたい、と考えるのも自然です。
しかし、そうでない方にとっては重い負担です。
延長した5年間の保険料総額は100万円近く※。
60歳から65歳の年金空白期間を切り抜けるには重すぎます。
今後の政府内での検討が公平なものになるのか。
弱者いじめになっていないか。
しっかり見極めていきたいと思います。
※ 保険料月額16,590円 X 12ヵ月 X 5年 = 995,400円
(保険料月額は今後一定と仮定)