教育資金を無税で贈与できる「贈与税の非課税特例」。来年は廃止、それとも存続?
もし、お子さんがいらっしゃる方は、
結婚するなら、結婚式の資金は出してあげたい。
住宅を買うのなら、その一部だけでも出してあげたい。
結婚したら、結婚式代は負担してあげたい。もし、お孫さんがいらっしゃる方は、
そのような想いを叶える制度が、来年3月31日で廃止されるかも、と言われています。
その制度、「贈与税の非課税特例措置」の動向をまとめました。
贈与税の非課税特例措置とは?
「贈与税の非課税特例措置」とは、読んで字のごとく、特例により贈与税がかからなくなる仕組みです。
通常、私たちが第三者に現預金や不動産などを年間で一人当たり110万円以上贈与すると、もらった人に10%から55%の贈与税がかかります。
たとえば、親から子へ500万円を贈与すると、子は63万円の贈与税を納税しなければなりません。
しかし、贈与税の非課税特例措置を使えば、贈与税を減らしたり、ゼロにして贈与することができるのです。
贈与税の非課税特例措置で、多額の贈与を一括でできる。
贈与税非課税の「特例措置」には、以下の3つがあります。
1.教育資⾦の⼀括贈与に係る贈与税の⾮課税措置
2.結婚・⼦育て資⾦の⼀括贈与に係る贈与税の⾮課税措置
3.住宅取得等資⾦に係る贈与税の⾮課税措置この3つはその名の通り、
☞ 「祖父母や親等」が「子や孫」へ、
☞ 「教育」、「結婚・子育て」、「住宅取得」の目的で贈与した資金につき、
☞ 「限度額以内」であれば、贈与税を課さない制度です。
これらの制度の大きな特徴の一つはまとまった金額を一括で贈与できることです。
下の表をご覧頂くと分かる通り、きちんと目的を決めて贈与すれば、大きな額を無税で贈与できるのです。
贈与税の非課税特例措置で「将来使う」費用を一括贈与できる。
この特例措置のもう一つの大きな特徴は、「将来使う分をまとめて」贈与できる点です。
実は、教育費は「必要な都度、直接支払った」場合、贈与税がかかりません。
例えば、お孫さんが大学に入学する際の入学金を贈与する場合、入学時に、大学へ直接払えば、非課税です。
【No.4405 贈与税がかからない場合】
(前略)
夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの。
ここでいう生活費は、その人にとって通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他子育てに関する費用などを含みます。また、教育費とは、学費や教材費、文具費などをいいます。
なお、贈与税がかからない財産は、生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのものに限られます。
したがって、生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。
出典: 国税庁「No.4405 贈与税がかからない場合」
一方、非課税特例措置では「将来使う分をまとめて」贈与することができるので、「必要な都度」に贈与する必要はありません。
単に贈与するだけでは、非課税にできない。
なお、この非課税特例措置には、いくつか注意点があります。
まず、結婚資金と結婚・子育ての特例制度については金融機関と信託契約を結ぶ必要があることです。
具体的には、まず信託銀行で金銭信託の口座を開設します。
この口座の目的は、贈与した財産を教育費などの目的だけに使われるよう管理することです。 したがって、口座の名義人(贈与を受けた人)が自由に出し入れすることはできません。
実際にこの口座から出金するには、定められた手続きが必要になります。
具体的には、まず領収書等を準備します。
その領収書を元に、支払先や金額などを所定の用紙に記載し、信託銀行の処理センターへ送付します。
そこで認められた金額だけが、金銭信託口座から出し入れ自由の普通預金口座に振り替えられます。
贈与された資金を使うにも、こうした(面倒な)手続きが必要になるため、節税になるとは言え、敬遠する方が多いのも事実です。
これは私の感覚ですが、今では信託銀行のアプリが登場し、領収書を撮影して送信できるようになったので、だいぶ楽になっています。
利用の主な要件は?
以下の資料は、財務省HPからの抜粋ですが、利用する場合の主な要件がコンパクトにまとめられているので、参考として転載しておきます。
贈与税非課税特例措置は2023年3月末で廃止?
この非課税特例措置ですが、2023年3月末で廃止されるのではないか、という憶測が出ています。
この元になっているのが、財務省が主導する政府の専門家会合である政府税制調査会です。
報道によると、11月に公表した検討内容で、「廃止する方向で検討することが適当」、という意見が出ていますが、その根拠となっているのが「所得格差」です。
特例措置を利用している人の多くが、資産を多く持ついわゆる「富裕層」であることから、この制度が世代を超えて格差を固定している、と批判が出ているのです。
実は、このような批判は今に始まったものではありません。
ここ数年の税制改正では、常にこの「格差の固定化」を早期に解消すべきという意見が出ていました。
【経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり⽅(抄) 令和元年9⽉26⽇政府税制調査会】
(前略)
他⽅、資産の早期移転による消費拡⼤を通じた経済の活性化を図るための時限措置として、各種の贈与税⾮課税措置が設けられているが、限度額の範囲内では家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっており、格差の固定化につながりかねない側⾯がある。
機会の平等の確保の観点などを踏まえ、資産移転の時期の選択に中⽴的な税制を構築していくことと併せて、これら各種の⾮課税措置のあり⽅についても検討していく必要がある。
出典: 財務省HP
しかし、だからと言って廃止が決まった訳ではありません。
例えば文部科学省は廃止に反対しており、2023年4月以降の存続を求めています。
その理由は報道によれば「少子化対策につながる」との事ですが、財務省の主張にどこまで対抗できているのか、気になるところです。
廃止か存続か、来年1月頃判明。
この特例措置を廃止するのか、それとも存続するのか。
その結論は、来年1月にも令和5年度税制改正の中で公表されます。
どちらに転ぶかは現時点では分かりませんが、もし制度の利用を検討している方は、その可能性がある、ということを念頭に入れておいてください。