映画「トップガン・マーベリック」の3つのトリビア: 映画が大ヒットしても儲からない?
(本記事にはネタバレが含まれます。 未視聴の方はご注意ください)
最近仕事に煮詰まっていたので、頭を使わずスカッとさせたいと思い、すきま時間で映画「トップガン・マーベリック」を観てきました。
平日の朝一、観客の入りは3分の1ほど。
2時間11分の上演時間の間、ずっと画面に釘付けで効果は抜群。
終わった後、嫌なことは頭からすっかり無くなりました。
そこで今日は、トップガン・マーベリックにまつわる3つのトリビアをご紹介します。
マッハ10に耐えた人間はまだこの世に存在しない。
映画の冒頭シーンで、主人公のピート"マーベリック"ミッチェル(トム・クルーズ)は架空の超音速機「Dark Star」に乗り込み、誰もが無謀と言う「マッハ10」の飛行に挑み、見事成功させます。
「マッハ10」。
この想像を超えるスピードに、常人離れしたマーベリックはまだしも、人間は本当に耐えられるものなのでしょうか?
実は、マッハ10という速度を経験した人間は、まだこの世にいません。
これまでの有人飛行での最高記録は、今から55年前(!)にノースアメリカンX-15実験機が達成したマッハ6.7。
この記録は現在まで破られていません。
そんな昔に人間がマッハ6.7に耐えられたのだから、今の技術ならマッハ10に耐えられるのでは? と素人的に考えてしまいますが、問題はそこではありません。
問題は人間ではなく、機体にあります。
マッハ7での表面温度は摂氏1,650度と言われており、マッハ10はそれ以上の高温。
それに耐えられる素材をどう作るか、が一番の課題です。
映画の中では、マッハ10に到達したDark Starが高温を発し、空中分解の危機に陥ります。
乗っているマーベリックは機体が発する熱で苦悶の表情。
それでもまだ挑戦を止めないマーベリック。
執念が実を結び、Dark Starはマッハ10.2を達成します。
しかしその直後、機体は空中爆発を起こし、墜落。
あわれマーベリック。
と思いきや、ギャグマンガのような黒焦げで田舎のダイナーに現れるシーンには苦笑しました。
こんな超人でなければ、やはりマッハ10の飛行は無理なのかも知れません。
大ヒットの前作「Top Gun」は、入隊の「決め手」とはならなかった。
映画を見る前に、いくつかのサイトで「自衛隊の入隊志望者が増えている。」という情報を目にしました。
これは本当なのでしょうか?
その真偽は(数字が公表されないため)不明ですが、前作(Top Gun, 1986年公開)後に米海軍が行った興味深い調査結果を知りました。
こちらの記事によると、前作「Top Gun」が公開された6年後の調査で「Top Gunを映画館やテレビで観たことが(志望動機に)影響した」と答えた人はわずか24%。
この結果から、本当に影響力があったのは映画ではなく、むしろチラシやパンフレットの方だった、と海軍は結論づけたようです。
しかし、これは今から30年近く前のこと。
今は、時代が違います。
SNSの発達に加え、ウクライナ・ロシア戦争で世界の緊張が高まっている時期。
各国の国防費も増額の気配があります。
その結果、トップガン・マーベリックとの相乗効果も相まって軍への予算が増えれば、採用者数も増加するはずです。 そうすれば、志願者数も増える可能性は十分考えられます。
映画がヒットしても製作したパラマウントの株価は急落。
トップガン・マーベリックの全世界興行収入は、現在約16億8千万ドル(約2,058億円)。
前作の売上(約3億6千万ドル)をはるかに超え、過去歴代映画の興行収入の第8位にランクインしています。
売上だけでなく、利益もかなりの数字になりそうです。
トップガン・マーベリックの制作費(予算)は1億7千万ドルと言われており、この数字に基づけば利益率は90%。 これも優れた数字です。
これならさぞかし、映画を製作したパラマウントの株価もアップしているのでは?
と思いきや、結果は全く逆になっています。
以下のグラフは、トップガン・マーベリックの制作会社(の親会社)Paramount Globalと、同じく2022年大ヒット映画「ミニオンズフィーバー」を制作したUniversal Pictures(の親会社)Comcastの株価を比べたものです。
よく見ると、1年前より株価は大きく下がっています。
何と、コムキャストは1年前より株価が▲43%、パラマウントは▲49%も下落。
しかも、NASDAQ市場平均(▲24%)を大きく下回っています。
「トップガン・マーベリック」や「ミニオンズフィーバー」が大ヒットしているのに、一体なぜこんな状態なのでしょうか?
その答えは、この2社の収益構造にあります。
2社ともに、主な収益源は所有している放送局やケーブルTVの広告費。
世界的インフレで米国の景気が悪化する懸念の影響をもろに受けているのです。
実は映画自体の売上は1割程度と高くありません。
問題は今後如何に公開後にAmazonやNetflixなどのストリーミングで視聴を稼ぐか、さらにはグッズの売り上げを伸ばすかに掛っているのです。
大ヒットを飛ばしても、それだけでは企業の業績につながらない。
コンテンツビジネスの難しさを改めて実感します。