投資信託で成功する方法:「分配金をいつ受け取るか」を決める(後編)
本記事は後編です。
前編はこちら
- 投資信託の「分配金」とは、投資家から集めた資金を運用した成果が分配されたもの。
- 投資信託を選ぶ基準の一つとして「分配金をいつ受け取るか」が大切。
- 分配金を受け取るタイミングは毎月、毎四半期、年一回などがあるが、年一回が最も多い。
- 分配金を受け取るタイミングが短いほど、収益が低くなる可能性がある。
分配金を「毎月」受け取ると収益が低くなる2つの理由
前回は、分配金を「年一回」で受け取るよりも、「毎月」受け取る方が収益が低くなる恐れがある、ということをお伝えしました。
なぜでしょうか。
その理由は2つあります。
まず、1「複利の効果」が得られない、から見てみましょう。
分配金を毎月受け取ると「複利の効果」が得られない。
「複利の効果」によって、収益がどう変わるのかを例で見てみましょう。
分配金の受取タイミングが「毎月」のA投資信託と、「年一回」のB投資信託に、それぞれ1,000万円投資するとします。
A、B投資信託ともに、1年間の利回りは5%です。
運用中の価格は一定として、1年後の収益はどうなるでしょうか。
A投資信託(分配金タイミングは「毎月」):
1,000万円 × { (1 + 5%) - 1} = 50.00万円
B投資信託(分配金タイミングは「年一回」):
1,000万円 × { (1 + 5% ÷ 12^12) - 1}≒ 50.16万円
A投資信託よりB投資信託の方が、1年後の収益は1,600円ほど多くなりました。
この差が生じた要因が「複利の効果」です。
複利の効果とは、生じた収益を受け取るのではなく、そのまま元本に戻し入れることで生じます。
その結果、元本は戻し入れた収益の分だけ毎月増えていくため、毎月受け取る分配金も合わせて増えていくのです。
分配金の「毎月受取型」は人気が復活している。
ここまでの解説で、こんな疑問を持たれた方もいるかと思います。
収益が多い、という点では確かにその通りです。
しかし、「毎月」分配金を受け取れる仕組みは、定期的な収入が欲しい方にとっては魅力です。
たとえば、こんな方が魅力を感じるでしょう。
- 少ない公的年金の受給額を補いたい。
- 分配金を毎月の生活費の足しにしたい。
- (将来のために貯めるのではなく)早めに分配金を受け取りたい。
- 運用による成果を「分配金」の受領によって実感したい。
そんな「毎月受取型」の投資信託ですが、つい数年前までは投資が集まらず低迷していました。
その理由の一つが、次の説明する「タコ足配当」です。
タコ足配当で投資元本が減ってしまう。
タコ足配当とは、運用成績が悪く収益が出ていないのに、それでも投資家に支払われる分配金のことです。
「タコ足」の名は、「タコは空腹になると自分の足を食べる」ということわざから来ています。
収益がないのになぜ、分配金が出るのでしょうか?
その理由は、毎月の分配金の額を運用会社が自由に決めることができるからです。
運用会社は、収益がなくても分配金を維持しようとします。
その方が、毎月の分配金を期待している投資家が喜ぶ、と考えるからです。
しかし、収益がない場合の分配金は、実は本来の意味での「分配金」ではありません。
実は、自分が投資した元本の一部が戻ってきたに過ぎません。
投資した元本をわざわざ切り離して、分配金に充てる。
これこそが、「タコ足」配当と言われるゆえんです。
例えば、以下の図では投資した元本1,000万円に対して、ある月の収益は50万円でした。
それにも関わらず、分配金を収益額より多い70万円支払ったために、投資元本は20万円減少して980万円になってしまいました。
投資元本が減れば、そこから生じる収益も減ってしまいます。
つまり、タコ足配当が投資信託の運用成績を下げてしまうのです。
実例:「グローバル・ソブリン・ファンド」のタコ足配当
概念的な説明が続きましたので、次に「タコ足」配当の具体例を見てみましょう。
今から20年ほど前、毎月分配型の投資信託は人気を博していました。
その代表格が、「グロソブ」の名称で呼ばれた「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」です。
「グロソブ」は、世界主要国の政府(および政府機関)が発行する債券で運用する投資信託です。
その信用性と、毎月定期的に分配金を受け取れる利便性から、販売額を大きく伸ばしました。
しかし、円高の影響などにより、基準価格が下落傾向になったにも関わらず、分配金は以前と同じレベルで分配されました。
そうした無理のある分配が批判を浴びることになり、同ファンドの販売はそれ以降低迷します。
今でも購入可能な「グロソブ」は、さすがに無理な分配はなくなりましたが、かつての勢いはありません。
毎月分配型の欠点を補う「予想分配金提示型」もあるが…
ここまで、「毎月分配型」投資信託の欠点を述べてきた訳ですが、実はその欠点を補う商品が近年登場しています。
それが、「予想分配金提示型」の投資信託です。
予想分配金提示型の特徴は、基準価格に応じて支払われる分配金の額があらかじめ決められている点にあります。
これにより、投資家はあらかじめ分配金を予想できる上、運用会社による「タコ足配当」のリスクを減らすことができるのです。
具体的な「予想分配金提示型」の商品を見てみましょう。
今最も売れている投資信託の一つ、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信(為替ヘッジなし)」の予想分配金は、以下の通りに定められています。
基準価格のレンジで分配金額が決まっているので、基準価格の下落時でも高い分配金が支払われ続けることもなさそうです。
しかし、だからといって「タコ足」配当のリスクが0になった訳ではありません。
上図の例では、基準価格が11,000円未満になった場合の分配金は決まっておらず、「基準価格の水準等を勘案して決定」されるとあります。
予想分配金提示型の投資信託であっても、このようなリスクがあることは、知っておいた方がよいでしょう。
「毎月分配金型」の投資信託は、つみたてNISAで購入できない。
ここまで、前編、後編と2回に分けて、「分配金をいつ受け取るか」が投資信託での運用成績に影響する、ということを説明してきました。
それでは、「複利効果が得られない」、「タコ足配当のリスクがある」という2つのデメリットがある「毎月分配型」の投資信託は「買い」でしょうか?
私の意見としては、投資信託の初心者の方に「毎月分配型」の投資信託はおすすめしません。
その理由は、前述した「複利効果が得られない」、「タコ足配当のリスクがある」点に加え、つみたてNISAを利用して購入できないからです。
まずは、投資信託で成功するための「第一歩」として、長期運用に向いた「年一回分配型」もしくは「分配なし」の投資信託をおすすめします。