なぜ、マーク・ザッカーバーグ氏の資産は半年で10兆円も減ったのか。
衝撃的な見出しが3日ほど前にYahooニュースに登場しました。
いくらあの「ビリオネア」マーク・ザッカーバーグとはいえ、なぜそんな短期間で10兆円もの資産を失うのでしょうか。
その理由は記事に書かれているのですが、経済の知識がない方には「?」な内容です。
そこで、記事を読んでもよく分からない、もしくは経済に疎い、という方のために、「10兆円を失った理由」をできるだけやさしく解説します。
世界22位の富豪、マーク・ザッカーバーグ氏
Meta(旧Facebook)のCEO、マーク・ザッカーバーグ氏。
1984年生まれの現在38歳。
2004年、若干20歳でFacebookを創業し、2012年にはFacebookをNASDAQ市場に上場を果たす。
保有する総資産は508億ドル(約7兆1,120億円)とも言われ、2022年時点で世界第22位の富豪。(2022年フォーブス・世界のビリオネアランキングより)
その一方で、顧客情報の漏洩、内部告発、政治への過大な影響力など、多くのトラブルと批判に晒されてきた人物でもあります。
そんな「悪名高き」起業家が失った10兆円。
普通の人ならあまりにも縁遠いその金額に、ピンとこないはずです。
そこで実感が持てるよう、次に日本の税収と比べてみましょう。
失った10兆円は、日本の1年間の法人税収入に匹敵。
日本全体の2021年度の税収は、合計約67兆円。
ザッカーバーグ氏が失った10兆円は、日本の税収の15%に相当する額です。
さらに、税収の内訳で見ると、消費税、所得税に次いで3番目に多い法人税(約14兆円)にほぼ匹敵する額になります。
これを、一個人であるザッカーバーグ氏が半年ほどで全て失った訳です。
もし日本の法人税収入が全てなくなったらどうでしょう。
国家破綻の危機です。
それが国ではなく一個人の資産の話ですから、ザッカーバーグ氏が失った10兆円のスケールが桁違いであることがよく分かると思います。
保有資産のほとんどが、自分がCEOを務める会社の株式
本題に入りましょう。
なぜ、Zuckerberg氏は10兆円もの大金を失ったのか。
その理由は、ザッカーバーグ氏が保有する資産のほとんどが、自身が創業し、現在もCEOを務めるMeta(旧Facebook)の株式だからです。
株式はご存知の通り、日々市場で売り買いされるため、時価が上がったり下がったりします。
もし時価が下げれば、Zuckerberg氏が保有するMetaの株式も当然下がります。
つまり10兆円が失われた理由は、Meta社の株価が大きく下落したからに他なりません。
株式で持たずに現金で持てばいいのでは? という訳にも行かない
こんな疑問が湧いた方もいるのではないでしょうか?
しかし(特に成功した)起業家の場合、そうはいきません。
その理由は、起業に成功すれば、自身が起業した事業の株式が何倍にも増える可能性があるからです。
実際、Meta社の株価は、2012年5月の上場時点で38.23ドル でしたが、ピーク時(2021年9月7日)の株価は382.18ドル。 わずか10年足らずで株価は何と10倍になっています。
このようなことは、現預金で資産を持っていても絶対に起こり得ません。
株式をどれだけ持つかで、事業への発言権が決まる。
起業家が株式を持つ理由はもう一つあります。
それは、株式を持つことで経営への発言権を得られることです。
株式をどれだけ持っているかで、経営方針や役員の選任、解任など重要な事項への発言力を増すことができるのです。
しかし株式を売ってしまえば、自ら経営への関与を失うことになりかねません。
実はFacebookの起業の頃に、重要な経営メンバーであったエドゥアルド・サベリン氏が、そのような目に遭っています。
彼はザッカーバーグ氏と共にFacebookを起業したメンバーの一人でしたが、「内部抗争」や「意見の違い」によりザッカーバーグ氏に疎まれ、株式を大量に発行された結果、エドゥアルド氏が持つ株式の価値が激減してしまいます。
結果、エドゥアルド・サベリン氏はFacebookから事実上追い出されることになります。
(この経緯は、2010年の映画「ソーシャル・ネットワーク」で詳しく描かれています。)
Meta社の成長に陰りが出て株価は暴落。
Meta社の株価に一体何が起こったのか。
それは、株価のグラフを見てみると一目瞭然です。
Meta株は1か月で36%も下落!
今年(2022年)の初めころに、Meta株の株価が大きく下がっていることがグラフから確認できます。
Meta株は2月1日時点で1株当たり319ドルでしたが、翌3月1日は203.49ドル。
実に36%の暴落です。
そのきっかけは、Meta社の2021年第4四半期におけるFacebookのアクティブユーザー数が創業以来初めて減少に転じたことにあります。
これまで全世界で急拡大してきたFacebookの成長が頭打ちとなったことが証明されたことになり、これに世界中の投資家が大きく反応しました。
さらに、悪材料はこれだけではありません。
Facebookがこれまで依存してきたターゲット広告の事業は、iPhoneを擁するAppleがプライバシー規制を強化した結果、精度が下がっています。
加えて、社名をMetaと変えてまで注力しているメタバース(インターネット上に構築した仮想空間)は赤字から回復する見込みは立っていません。
そうした悪材料の数々に、市場が一気に反応したと考えられます。
ちなみに、2月3日のMeta社株価の下落率は、たったの1日でマイナス26.4%。
Meta社全体の価値に換算すると、1日で約2,400億ドル(約33.6兆円)が失われたことになります。 こちらの記事によると、この損失額はアメリカの企業が1日で失った企業価値としては過去最大だそうです。
10兆円の損失は、ザッカーバーグ氏にとって本当に痛手?
今年のMeta社株暴落によって、ザッカーバーグ氏が保有する株式の価値は半分になってしまいました。
ただ、それがザッカーバーグ氏にとって痛手か、というとそうではなさそうです。
先ほど計算した「時価総額」を元に計算すると、ザッカーバーグ氏が保有するMeta社の現在の株式の時価は、株価下落後であってもまだ約8.4兆円あります。
そして、現在のMeta社の事業の主要サービスである「メタバース」が成功すれば、また株価が戻ることも十分あり得ます。
まだ十分やり直しがきく年齢であるザッカーバーグ氏にとって、保有する株の価値が半分になったところで、何とも思っていないはずです。
さらに、ザッカーバーグ氏が保有する全資産は、Meta社株だけではありません。
CEOを務めるMeta社から支払われる役員報酬もあります。
2021年に受け取った役員報酬は、公表資料によれば2,682万ドル。(約39億円)
「10兆円でガタガタいうな!」というところでしょう。
そもそも、それが「起業家」という存在です。
(興味のある方へ)「10兆円」の計算方法
本記事のおまけとして、Zackerburg氏が失った「10兆円」の計算方法をご紹介します。
そのためには、Meta社の「時価総額」(企業が発行した株式数に、その時点の株価を掛けたもの)の内、ザッカーバーグ氏が保有している割合が、2022年1月1日から6月30日にかけてどれだけ下がったかを算出します。
この時価総額に、ザッカーバーグ氏が保有する株式の割合(12.5%)をかけると、ザッカーバーグ氏の持ち分、つまり資産の額を知ることができます。
その資産の額が分かれば、あとは株価をかけるだけです。
実際に計算してみましょう。
① Meta社の時価総額下落分
2022年年初 :28.59億株(発行済み株式数)× 338.54$(株価)= 9,679億ドル
2022年6月末:28.59億株(発行済み株式数)× 161.25$(株価)= 4,610億ドル
下落した時価総額 = ▲5,068億ドル
② 下落した時価総額の内、ザッカーバーグ氏の保有分(12.5%)
▲5,068億ドル × 12.5% × 145円(直近の為替レート)= 約9.2兆円。
算出方法が違うため、記事見出しにある「10兆円」ピッタリにはなりませんが、ほぼ近い数字になっています。